「the 比較級+ the 比較級」に定冠詞が使われる理由は?

質問:英語の慣用表現「the 比較級+ the 比較級」は、どうして定冠詞 "the" が使われるのですか?

回答:「the 比較級+ the 比較級」の "the" は定冠詞ではありません

詳しくは以下をご覧ください。

1.「the 比較級+ the 比較級」の "the" の正体

「the 比較級+ the 比較級」の "the" は副詞です。

2. 辞書に載っているの?

辞書によっては、副詞としての "the" を記載していません。

Longman」や「Merriam-Webster」といった辞書は、定冠詞の "the" と別途に 副詞の "the" を記載しています。

ですが、「Oxford Learner's」は定冠詞 "the" の用法の1つとして副詞の "the" を記載しています。

3. 副詞の "the" の意味は?

対応する訳語は存在しない

副詞 "the" の訳語はありません。 例えば「Longman」では「the 比較級+ the 比較級」の "the" の意味を次のように説明しています。

used before two comparative adjectives or adverbs to show that the degree of one event or situation is related to the degree of another one
比較級の形容詞2つまたは比較級の副詞2つの前に置かれ、一方の(形容詞や副詞が示す)出来事や状況の程度がもう一方の(形容詞や副詞が示す出来事や状況)に関わることを示すのに用いられる
わかり辛い説明ですが、「the 比較級+ the 比較級」における "the" の役割について述べています。 この説明を「Longman」が記載する次の用例と見比べると理解しやすいでしょう。
The more he eats the fatter he gets.
彼は食べるほどに太る。(食べる量が多いほど太る)
"When do you want it?"
"The sooner the better."
「いつそれを欲しい」
「早いほど良い」
「Longman」の説明が述べるのは慣用表現「the 比較級+ the 比較級」における副詞 "the" の機能であって、"the" の意味ではありません。
副詞 "the" が「the 比較級+ the 比較級」で担当する意味を抜き出すのは不可能です。

「the 比較級+ the 比較級」だけじゃない

副詞としての "the" には他の用法もあります。 例えば、"He runs the fastest." の "the"。 いわゆる「最上級の "the"」です。 この副詞 "the" も日本語に訳せません。

学校では "He is the fastest runner." と同じ意味の文として "He runs the fastest." 教わる(事実、意味は同じ)わけですが、この2つの文の "the" は同じではありません。 1つ目の文の "the" は定冠詞(名詞 "runner" にかかる)ですが、2つ目の文の "the" は副詞です。

2つ目の文 "He runs the fastest." には名詞 "runner" が存在しません(省略されているわけでもない)。 したがって定冠詞の出番はありません。

4. 語源は?

副詞としての "the" は定冠詞 "the" とは語源が異なる別の単語です。

定冠詞 "the" の語源

定冠詞 "the" の語源は「それ、その」を意味する古英語 "þē" です。"þē" は「セー」と発音します。

"þ" は古英語の文字。 発音記号は /θ/。 "theory" の "th-" などと同じ発音。「シ」や「ス」などの濁らない音。

けれど、"þ" は /ð/ と発音されることもあった。 /ð/ は「」と濁る音で、"the" の発音(/ðʌ/)にも使われる。

副詞 "the" の語源

これに対し副詞 "the" の語源は、「それにより、それゆえに」を意味する古英語 "þȳ" です。

さらに先の語源は同じ

"þē" も "þȳ" も、語源は古英語 "" です。

"sē" の意味は「その、それ」。 定冠詞・形容詞・代名詞として用いられました。 現代英語の定冠詞 "the" や指示詞 "that" に相当します。

"sē" の主格(男性形)に由来するのが "þē" で、助格(中性形)に由来するのが "þȳ" です。 由来するというか、ほぼそのままです。 "sē" の助格(3つぐらいある)の1つが "þȳ" ですし、"þē" は "sē" の "s" が "þ" に変わっただけです。

「主格」は現代の英文法にも登場します。 主語となる名詞の格(英語で "case" と言う)が「主格」です。

助格」は「道具」や「手段」を言い表す格です。 道具や手段を言い表す「~によって」は、古英語 "þȳ" の意味「それにより、それゆえに」に通じるものがあります。